「1万平方m超の大型店、郊外進出禁止 規制緩和を転換へ」
http://www.asahi.com/business/update/1221/098.html
パッと見て思ったのは、ザル法になるんじゃないか、ということ。敷地の半分の施工時期をずらして関連施設だけ半年後に立てるとか、百貨店法の「擬似百貨店」で使った手をアレンジして、いくらでも抜け道が作れるんじゃないかと。
ところが典型例を探しているうち、1万平米というのはこういう複合施設としてそう大きいものではない、ということに気づきました。スーパーだけなら十分に巨大なんですけどね。埼玉大学から遠くないイオン与野ショッピングセンターは工場跡地利用で、5万2千平米だとか。
イクスピアリは11万7千平米。恵比寿ガーデンプレイスの47万7千平米は住居区画やホテルを含むのでさすがに別格としても、1万平米というのは姑息な手でちょいちょいとクリアできるハードルではなさそうです。
もともとこういう大型商業施設の地域での位置づけは、個々の地域が作る都市計画で決めるというのが大店法廃止時のタテマエでした。ところが都市計画法が想定する地域内の利害調整は、当初から言われていたことですが、そう簡単には進みません。巨大チェーンはビジネススピードで(後から見て正しいかどうかはともかく)意思決定を済ませてしまいますから、建てたり閉じたり、施設の費用に見合ったお客を集める算段をさっさと進めてしまいます。そこへ国がジェネラルルールを作って、問題になっている商業空洞化だけでも食い止めようというのが話の筋。
与党と政府が考えて政府が提出するというのですから、議員立法ではありません。むしろ「まちづくり三法」制定後のフォローアップを粛々とやっていく中で出てきた話、と素直に読めば読めます。酒政連事件で最近も話題になったように、とかくこうした問題は業界筋の議員さんが動くものですが、記事を見る限りではあまりゴリ押し色は感じません。
記事に出てくる用途地域の変更は、まさに都市計画(の変更)で、市町村(三大都市圏・風致地区などは都道府県)が行うものです。都市計画法第15条・都市計画法施行令第9条参照。
つまり極端な話、A市が大規模施設で街起こしをしようとして用途変更を認め、隣のB市から客を(自動車で動ける人たちだけ)奪い、B市のお年寄りが買い物に行ける店が減る、などということも考えられます。ただし、いま市町村合併が進んでいますし、都道府県に用途地域変更が委ねられている地域は多いので、もっと広域的な地方政治の場で地域間の利害対立が調整されるまで用途変更が出来ない、という状況のほうが多く起こりそうです。要するに今回の案は、政治の遅い調整スピードにビジネスも合わせろ、と言っているように思えます。
ショッピングモールというのは消費の「スタイル」だと思っています。エンゲル係数が所得増加とともに下がり、代わってより大きな比重を占めてくるのは娯楽支出です。休日に家族で時間を過ごし、例えば映画や遊園地で家族一緒にお金を使うことや、みんなで選んで高いものやプレゼントを買うことと、生活必需品の買い物をワンストップでやってしまいましょうというのがショッピングモール。だから増えるべきだとか無用だとか、べき論にもともとなじまない存在です。
むしろ町全体が私的に囲い込まれて、外側に何が残されるのかが問題というべきかもしれません。町には経済力のある人もない人もいて、経済力のある人だけおいでおいで、というのがモール。
そこまで考えると、公の領域にお金のかかる手のかかる問題をすべて置き去りにして、経済性のあるものだけ引きつけようという人工の街モールは、既存の街に置いてしっかり税金を納めろ(法人事業税だけでなく、店舗の売上や従業員数は商業統計や事業所統計を通じて、地方消費税配分のウェイトにも使われます)、というのはひとつの理屈です。モールを減らせば食品スーパーが増える、とは思いませんがね。
ちょっと気になるのは、売る側の事情ですね。工場を売っぱらう先がひとつ、ごっそり減るわけでしょう。いまの国情だと、企業というのは倒産するものだ、社会全体の右肩上がり成長でみんなが助かる時代じゃないんだ、という前提に立って、傷の浅い撤退のしかたを社会のシステムに組み込んでいかなければなりません。いま工業用地の流動性を下げて大丈夫ですか、という懸念があります。